
日々の生活の中で、感情がまるで嵐のように激しく波立ち、自分ではどうしようもできないと感じることはありませんか?
・「どうして自分だけこんなに傷つきやすいのだろう」
・「感情に振り回されて大切な人間関係を壊してしまう」といった悩みを抱えている方は少なくありません。
こうした「感情調節の困難さ」に焦点を当て、より生きやすくするための実践的なアプローチが、
弁証法的行動療法(DBT)です 。
このブログでは、DBTがどのような考え方に基づき、具体的にどのようなスキルを使って皆さんの日常をサポートするのかを詳しく解説します。
1. なぜ感情が激しく動くのか?(生物社会理論)
DBTでは、感情が激しく動く背景を「生物社会理論」という考え方で説明します 。
これは、個人の「生まれ持った性質」と、周囲の「環境」の相互作用に注目するものです。
- 生物学的な傾向: 生まれつき感情に対して非常に敏感で、反応が強く、一度高まった感情が元に戻るまでに時間がかかるという特徴があります 。
これは、脳の感情を司る部分(偏桃体など)の働きが平均的な人よりも活発である可能性が示唆されています 。
- 非承認的な環境(Invalidating Environment): 自分の自然な感情や考えを、周囲から「そんなこと気にするな」「わがままだ」と否定されたり、無視されたり、罰せられたりする環境のことです 。
この二つが組み合わさると、自分の感情をどう扱えばよいか分からなくなり、結果として「自傷行為」や「激しい怒り」、「引きこもり」といった、感情の嵐を鎮めるための(短期的には効果があっても、長期的には苦しい)手段を繰り返してしまうようになります 。
2. 「弁証法」とは?――受容と変化のバランス
DBTの核心にあるのは「弁証法(べんしょうほう)」という考え方です。
これは、矛盾する二つの事柄のバランスを取り、より高い次元での解決策を見つける技術を指します 。
治療における最大の弁証法は、「今の自分をあるがままに受け入れる(受容)」ことと、「より良く生きるために変わる努力をする(変化)」ことのバランスです 。
「今のままで大丈夫」と言われると、問題が解決しない気がします。
一方で「変わりなさい」ばかり言われると、今の自分が否定されているように感じます。
DBTでは、「あなたは今、精一杯ベストを尽くしている(受容)。そして、さらに状況を良くするために、もっと効果的な方法を学ぶ必要がある(変化)」という二つの真実を同時に大切にします 。
3. 感情を乗りこなすための4つのスキル
DBTでは、日常の困難に対処するために、4つのスキルのまとまり(モジュール)を学びます 。
① マインドフルネス・スキル(心の土台)
これは「今、この瞬間」に起きていることに気づき、価値判断をせずに受け入れる練習です。
- 3つの心の状態: 感情が支配する「感情的な心」と、理屈だけで考える「理性的な心」。この二つが統合された、静かで直感的な知恵の状態を「賢いこころ(Wise Heart)」と呼びます 。マインドフルネスはこの「賢いこころ」にアクセスするための手段です。
- やり方のコツ: 自分の体験を「観察し」「言葉にし」「体験する」。
その際、「評価を下さず」「一度に一つずつ」「効果的に(自分にとって有益な方法で)」行うことを意識します 。
② 対人関係保持スキル(人間関係を快適にする)
相手との関係を大切にしながら、自分の希望を伝えたり、断ったりする技術です 。
- 3つの優先順位: 「目的(何を得たいか)」「関係(相手にどう思われたいか)」「自尊心(どんな自分でいたいか)」の3本柱を整理し、その場面でどれを最優先するかを考えます。
- 境界線(バウンダリー):人間関係での適切な距離感を学ぶ、課題の分離などをワーク形式で学んでいきます。適切に頼むと断るスキルを練習していきます。
- 伝えるスキル: 望みを叶えるための「DEAR MAN」、関係を維持する「GIVE」、自尊心を保つ「FAST」といった覚えやすい合言葉を使って練習します 。
③ 感情調節スキル(感情の波を穏やかにする)
感情のメカニズムを理解し、激しすぎる負の感情を和らげる方法を学びます。
- 感情の役割について知る: 怒り、不安、落ち込みなどの感情には役割があります。
驚きや恐怖などの瞬間的な一次的感情に対して、怒りは二次的感情と言われていま
す。「こうあるべき」などの見えない価値観や信念を検討していきます。
- 感情のメカニズム(仕組み)について学ぶ:ある出来事から、どのような感情が発生し衝動的な行動に繋がるのか。その仕組みについて学び対処法を考えます。
④ 苦悩耐性スキル(危機をやり過ごす)
どうしても変えられない「辛い瞬間」を、事態をさらに悪化させることなく乗り切るためのサバイバル技術です 。
- STOPスキル: 衝動的に動きたくなったとき、「ストップ(止まる)」「一歩下がる」「観察する」「マインドフルに前進する」の手順で立ち止まります 。
- 現実の受容: 起きている現実がどんなに辛くても、「今はこれが現実だ」と徹底的に受容することで、現実と戦うことに費やしていたエネルギーを、次のステップへ向けるために使えるようになります。
4. あなたは一人ではありません
DBTが大切にしているのは、「承認(Validation)」です 。支援者や家族、そして何よりあなた自身が、「今の状況でそのように感じるのは、無理もないことだ(理にかなっている)」と認めることから変化が始まります 。
感情の調節が難しいことは、あなたの欠点ではなく、これまで生き延びるために懸命に工夫してきた結果かもしれません 。
DBTは、その懸命さを認めつつ、よりあなたが望む「生きる価値のある人生」を築くための新しい道具(スキル)を提供します。
まずは、今日一日のどこかで、自分の呼吸にそっと意識を向けてみることから始めてみませんか?「今、私は息を吸っている」と言葉にするだけでも、それは立派なマインドフルネスの第一歩です。
一歩ずつ、共に「賢いこころ」を育てていきましょう。
※ あつた白鳥クリニックでは、毎週木曜日の17時より弁証法的行動療法のエッセンスを取り入れた「スキルアップ・グループ」を開催しています。
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