前回のブログでは、パニック障害の治療目標について解説してきました。症状の安定化だけでなく、生活習慣や働き方、その人が持つ考え方の癖を振り返りや、さらに本人が送りたい生活を考えながら、治療にチャレンジしていきます。
一方で、パニック障害の診断がついてから処方のみの治療を続けている方の中には、症状の一部を受け入れ、安定はしているが完治には至っていないケースもあります。
そこで今回のブログでは、これまでとはまだ別の事例を通して、パニック障害が時間経過によって完治することが難しい理由を解説していきたいと思います。
【事例】
Bさんは40代前半の専業主婦の女性。10年前に出産し、子育てが忙しく、不眠気味の生活を送る中で、自宅にてパニック発作が出現。「自分がまた発作を起こしたら、子供を見守ることができなくなるのでは?」という予期不安が出現したため、精神科を受診して薬での治療を開始しました。徐々に発作は落ち着きましたが、それでも発作が起きたら不安だと主治医に相談したところ、頓服(発作が起きた際に飲んで症状を抑える薬)を処方されました。実際に頓服を使う機会は多くありませんでしたが、授業参観や学校での行事など、そこで発作が起きたら困る場面では頓服を持ち歩き、ドキドキしてきたら飲むことで安心して臨むことができました。Bさんはもともと車の運転が好きでしたが、運転中に発作が起きることを恐れ、車の運転は夫に任せ、普段の移動は自転車や徒歩、電車やバスなどを使うことで乗り切ってしました。発症から10年、平穏な生活を送りつつも、鞄の中に頓服が入っているかを確認することは欠かしません。
Bさんは車の運転ができないことと、頓服薬を持ち歩いていること以外は、パニック障害と診断される前と同じような生活を送っています。症状が管理できているという意味では、医学的にも1つのゴールといえるかもしれません。
しかし、この状態は完治といえるでしょうか?
また、もう10年したら、Bさんは頓服を手放して車を運転できるようになるでしょうか?
まず、Bさんはこの先も行事がある度に頓服をお守り代わりに持ち歩くと思いますが、万が一忘れてしまった際、Bさんの中にある予期不安が復活し、せっかくの子供の行事を集中して楽しむことができなくなるでしょう。
また、夫が出張等で家を空けたときには、Bさんが車を使うことはできません。車以外の移動手段を駆使して生活を送ることに慣れているので、運転の練習をしようとは思わないでしょう。まして、10年間運転を控えていると、運転技術への自信のなさも重なってしまいます。結果、今の生活を続けている以上、Bさんの運転への苦手意識は変わりません。
どの状態を「回復」と定めるのかは本人です。
Bさんは普段の困り感がない分、これ以上の治療を受けようとは考えにくいでしょう。新たな治療を受けて安定していた日常に変化が起きることを恐れる気持ちもあると思います。
それでも我々は、Bさんのようなケースにこそ完治を目指した専門治療を受けることを検討していただきたいと思います。
「頓服がないと生活ができないと諦めていないか?」
「車を運転できないことで諦めてきたことはないか?」
「もし運転ができるようになったら、やってみたいことはあるか?」
上記のような質問をしながら、克服したい理由(=目標)目標を一緒に探していきます。
Bさんであれば、「夫が不在の時に子供が急な体調不良を起こした際、運転して病院に連れていけるようになっておきたい」という目標が立てられるかもしれません。もし自由な運転ができるようになったら、元々運転が好きであったことを踏まえ、自分の好きな車を購入することも考えるようになるでしょう。
いかがだったでしょうか?
大事なのは本人の意志です。処方以外の治療を望まない方に強制することはありません。
それでも、諦めの気持ちから現状維持を選択している方は、完治を目指した専門治療を受けることを検討していただきたいと考えています。
あつた白鳥クリニックでは、パニック障害の本質となる不安感、その中身である身体感覚過敏への専門治療に加え、広場恐怖の克服ための治療を行っていきます。
また、お近くに専門の医療機関がない方に向けて、オンラインでの対応もしております。
今後も情報発信をしていきますので、ご興味のある方は一度お問い合わせください。